今年で25周年目を迎える日本映画祭は、予定よりも1日遅れの10月29日から、キャンベラを皮切りにスタートし、パース、ブリスベン、メルボルンを渡り、最終地点となるシドニーでは11月25日より開催されます。
今年のオープニングを飾る映画『HOKUSAI』は、浮世絵の代名詞とも言える「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」を手掛けた天才浮世絵師、葛飾北斎の知られざる人生を描いた伝記ドラマ。モネやゴッホなどの西洋画家にも多大な影響を与えたと言われる北斎の作品は、世界中で愛され、今もなお高く評価される一方で、この天才絵師が歩んだ人生については、資料が断片的にしか残っていません。
A print from the series Thirty-Six Views of Mount Fuji by Hokusai Source: Historical Picture Archive/CORBIS/Corbis via Getty Images
『HOKUSAI』の脚本を手掛けた河原れんさんによると、作品のきっかけは数年前、当時5歳であった友人の子供と神奈川県の三浦海岸を訪れていたとき、その子が水平線に浮かぶ富士山を見て、「あ、北斎」と発した一言であったと語ります。
「こんなに小さい子でもこの風景を見たときに北斎、つまり神奈川沖浪裏の構図を思いだすんだ」と衝撃を受けたと同時に、「こんなに世界的に有名な日本人なのに、(彼の人生は)私も含め、日本の人も知らない」と初めて感じたと振り返ります。ニューサウスウェールズ州立美術館でアジア美術を担当するシニア・キュレーター、メラニー・イーストバーン氏は、北斎の作品の多くは約200年前に制作されたものの、「作品のグラフィック・クオリティーは、今でも魅力的な即時性を持っている」とし、北斎は「有名な神奈川沖浪裏のようなドラマチックな瞬間だけでなく、日常生活の中のユーモラスで優しいシーンや、怪談に出てくる恐ろしいキャラクターなども描くことができた」絵師であったと評価します。シドニーの日本映画祭では、スペシャルゲストとして、『HOKUSAI』のポストフィルムトークを予定しているイーストバーン氏は、作品はこれまで描かれることなかった北斎の人生に「温かみと親しみを与え」、「観察力に優れた気まぐれな若者から観察力に優れた気まぐれな老人まで、一人の人間としての北斎を描いており、芸術家としての成功よりも人間関係について描いている」と話します。河原さんは、北斎についてリサーチを進めるなか、風変わりなキャラクターも含め、彼の魅力的な人間性に惹かれ、また「今の世の中に伝えたい色々なメッセージを含んでいる人生を歩んだ」であろうと、脚本を決断したと言います。
Len Kawahara is the scriptwriter of the film Hokusai Source: Supplied: Japanese Film Festival
The young Hokusai played by Yuya Yagura Source: Copyright ©2020 HOKUSAI MOVIE
The old Hokusai played by Min Tanaka Source: Copyright ©2020 HOKUSAI MOVIE
しかし北斎が成功に至るまで歩んだ人生については資料がなく、「ないものを探す」ということには大変苦労したと語ります。
河原さんは年表を作り、北斎がどんな作品を描き、どんな人物と出会い、時代背景をもとにどのような会話がされのかと、点と点をつなぎ合わせ、「周りの人から北斎像を浮かびだした」と言います。映画では北斎を青年期(柳楽優弥さん)と老年期(田中泯さん)にわけて描いています。河原さんは北斎の娘、お栄役としても出演していますが、出演当時は最終的な脚本を書く上で忙しくしており、まるで「波にまかれる、HOKUSAIのクライマックスに出てくるようなうずの中にいるようであった」と話します。
Katsushika Hokusai is one of the most influential Japanese artist, yet how much do we know about him? Source: Copyright ©2020 HOKUSAI MOVIE
しかしすべてが終わった今は、田中泯さん演じる北斎とともに、自分が描いた世界で演じられることはとても光栄で、幸福な時間であったと語ります。
キャンベラ: 10月29日 –11月 2 日
*コロナウイルスの影響によりキャンベラで予定されていたオープニングはキャンセルされました
パース: 11月4日-11月7日
ブリスベン:11月 11日-11月21日
メルボルン: 11月18日 – 12月5日
シドニー: 11月25日 –12月 5日
また11月15日から21日までは、過去の映画祭で上映された5作が、オンラインで無料開催されますので、こちらもぜひご覧ください。
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