オーストラリアの都市部では近年、ローカルのスーパーでも醤油や味噌など日本の食材が入手できたり、日本食レストランが身近にあったりと、私たち日本人も不便なく暮らせるようになりました。
しかし地方部では、異文化が浸透していない町はいまだ多く、同じ国とは思えないほどのギャップを感じる地域もあります。
「都会ではできない経験を子供たちにさせてあげたい」と、約5年前に、ニューサウスウェールズ州内陸部の小さな町、ヘンティに引っ越したいずみ・フーパーさんは、引っ越し当初、ヘンティの住人の多くが寿司を食べたことも、見たこともなかったと語ります。今年に入り、日本人家族が引っ越してきたものの、それまではいずみさんがヘンティで唯一の日本人でした。
Izumi moved to the town of Henty, hoping to give her children experiences that only rural life can provide Source: Izumi Hooper
いずみさんが寿司をヘンティの町で広めるきっかけとなったのは、ニューサウスウェールズ州地方消防隊のひとつである、「メリーメリック・ブッシュファイヤー・ブリゲード」のクリスマス・パーティでした。これは車両や装備が消火活動に適しているかどうかをチェックするためのミーティングでもあり、メンバーや家族、近所の人たちがワンプレートの料理とともに集まるもので、いずみさんの家族も初めて、参加しました。
このときにワンプレートとして提供したのが、巻き寿司でした。オーストラリア人の夫、ベンさんが「誰も食べる人はいない」「やめたほうがいい」とアドバイスしていたように、初めは巻き寿司に誰も手をつけなかったと振り返るいずみさん。しかし、パーティの後半で、ひとりの女性が美味しそうにいずみさんの巻き寿司を食べていたと言います。
Source: Izumi Hooper
この女性は、ヘンティで唯一のカフェ、『ヘンティ・ベイカリー』を営むメラニー・ショルツさんでした。
「イズの寿司は、テーブルの上で最もエキゾチックな料理でした。 これはメニューに加えてもいいと思いました」とメラニーさんは語ります。
彼女からの熱い誘いもあり、巻き寿司をカフェのスペシャルメニューとして提供することとなったいずみさんですが、はじめはとても厳しかったと振り返ります。
「田舎の人は新しいものが入ってきても、なかなかチャレンジできないんです」
メラニーさんとともに、忍耐強く町の人を説得し、たとえ売れ残っても、諦めることなく巻き寿司の提供を続けました。
海苔が苦手な方には、海苔なしで提供するなど、地道な努力もあり、現在、ヘンティの町では巻き寿司が大人気となり、売れ残るどころか、1週間前から予約が入ることもあるとメラニーさんは言います。
そして何よりもいずみさんが驚いたのは、ヘンティの小学校からの依頼もあり、学校のカンティーン(売店)でも巻き寿司が提供されるようになったことです。
「引っ越し当初のことを思うと、考えれない」と話すいずみさんは、ヘンティの町では「スシガール」と呼ばれるほどの有名人となりましたが、本業はグラフィックデザイナー。
ヘンティの町に根付いたデザインをはじめ、国内外のあらゆるデザインを手掛けています。
巻き寿司が提供されるようになったヘンティの小学校では、「バディーベンチ(その日遊び相手がいない生徒が座るベンチで、それを見た周囲の生徒が遊びを誘う)」の後ろにある壁画も手掛けました。
メラニーさんはたった1人の日本人としてヘンティの町にやってきたいずみさんと家族について、「ビジネス、社会活動、スポーツ、学校活動など、さまざまな形で貢献しており、この小さなコミュニティに素晴らしい存在となっています」と語ります。
ローカルカルチャーに根付いたデザインを手掛けながらも、日本の文化を浸透させるいずみさんの活動に今後も注目です。
インタビューではヘンティでの暮らしなどについても聞きました。
LISTEN TO
NSW州の小さな町で寿司を広めたデザイナー、いずみ・フーパーさん
SBS Japanese
30/03/202112:20
火木土の夜10時はおやすみ前にSBSの日本語ラジオ!