オーストラリアのような多文化国家で生活をしていると、異なる信仰や文化の人々との出会いは少なくありません。
そのため、文化的・言語的に多様な(Culturally and Linguistically Diverse・CALD)コミュニティーの宗教や文化を理解し、評価できることが、一体化のある社会には求められます。
そのひとつが、あらゆる宗教で行われている断食、いわゆる「ファースティング」です。
ハイライト:
- 断食は、細胞の再生や長寿を助けることが研究で明らかにされている
- 多くの宗教や哲学では、何世紀にもわたって断続的な断食またはカロリー削減が実践されてきた
- 子供、高齢者、摂食障害のある人は断食をしてはいけない
オーストラリア勲章受章者で、オーストラリアン・ムスリム・ボイス・ラジオ(AMVラジオ)で、ラマダンに関する番組を放送しているダイアナ・アブデル・ラーマンさんによると、ラマダンはイスラム教徒にとって、「神や自分の宗教と再びつながるための時間」であると説明します。
「断食 は、実は体にも心にも魂にも効くんです。ラマダンの期間中は、お祈りの回数を増やすことが多いですね。これは、誰もが神と再びつながれるチャンスなのです」
「今やっていることをすべてやめて、信仰に集中するチャンスなんです」と彼女は説明します。
ラマダンは、イスラム暦の第9月のアラビア語の名称で、太陰暦によって29日または30日間続きます。この月の間、イスラム教徒は日の出から日没まで、水も含め、飲食はしません。
Fasting is one of the Five Pillars of Islam. Source: Pexels/Monstera
断続的断食
ラマダンは断続的断食(IR)の一種で、12時間から数日の間、カロリーを摂取しない、あるいはほとんど摂取しない食事パターンを表す言葉として使用されています。
クイーンズランド大学で講師を務める栄養士、ヴェロニク・チャチェイ博士によると、ラマダンは、「時間制限の摂食カテゴリー」に分類される断食の一種です。
博士によると、限られた期間、完全に食べ物を控えることは、体にいくつかの重要な利点をもたらすと言います。
「断食の期間中は、細胞内の回復力を高めるメカニズムが分子レベルで作動します。細胞はストレス反応に切り替わり、軽度のストレスによって、特定の解毒酵素の遺伝子が活性化されます」
Source: Getty Images/lacaosa
その結果、細胞は春の大掃除のように清掃されます
その一方で、水を控えることの効果は証明されてなく、逆に水を飲むことで毒素を洗い流すのに有効であるとチャチェイ博士は話します。
断食中、体のさまざな組織や臓器で「オートファジー」と呼ばれるプロセスが誘発されます。
オートファジー(自食作用)は細胞が自らを分解して再利用することを指し、つまり古くなった細胞質成分「オルガネラ」がリサイクルされるのです。
チャチェイ博士によると、このプロセスにより細胞の健康全般が改善され、老化を遅らせることもできると言います。
「これらのメカニズムは、細胞の老廃物を減らし、毒素を減らすので、長期的に良い結果をもたらすのです」
解毒能力が高められることで、再生されるようなものです
また断食が終わることも、再び細胞の再生に貢献すると言います。
「栄養が欠乏していた細胞に、突然栄養素が入ることで、細胞はこれを最大限に活用しようとするからです」
「無駄遣いされるわけでも、余っているわけでもなく、細胞の最適な働きのために使われるのです」
しかし、食事を再開する際には糖分や脂肪分が多いものを摂りすぎず、体に良いものを選ぶ必要があるとチャチェイ博士は説明します。
特に食事を再開するのが夜である場合、この時間帯にインシュリンを上げることはよい結果をもたらさないと言います。
ユダヤ教では、イスラム教と同様に、断食は水を含み、飲食が完全に禁じられています。
一方、断食が重要な習慣であるヒンズー教では、軽い制限から極端な制限まで、さまざまなものがありますが、断食は義務ではなく、心身を清めることを目的とした道徳的・精神的行為とされています。
Breaking fast in Ramadan. Source: Getty Images/Jasmin Merdan
カロリー制限
宗教によっては、断食は、決められた期間、特定の食べ物を断つものもあります。
例えば、カトリックでは四旬節(Lent)の金曜日は肉を食べず、ギリシャ正教では毎年3つの期間に合計180~200日間、主に乳製品、卵、肉、時にはオリーブオイルや魚も断ちます。
チャチェイ博士によると、このような断食は「カロリー制限(CR)」に分類されると言います。
またこの原理を応用した現代の食事療法が、「Calorie restriction practice on optimal nutrition」というもので、健康増進や老化を遅らせるためにカロリーを制限しつつ、1日に必要とされているさまざまな栄養素を確保しようとするものです。体は軽いストレス状態に陥ることで、すでに持っているもの、または入ってくるものを最大限に活用しようと学びます。
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そのため、体内における過剰な脂肪の蓄積により起きる慢性疾患の前兆でもある軽度の炎症などは起こらないと言います。
またこれらの遺伝子は完全に断食しているときと比べると、少なからず刺激を受けているため、より良い抗酸化防御で、フリーラジカルや毒素などを排出する能力を発揮すると説明します。
その結果、全体的な効果として、老化のプロセスを遅らせることができるのです
現代のダイエット
断続的断食の一般的なものに、1日に500キロカロリー以上の食事を週に2回しない「5:2ダイエット」があります。
「5:2ダイエット」の著者、マイケル・モズレー博士は、近年このプランを2日間で800カロリー、残りの5日間を低炭水化物で補う「ファースト800」というダイエットに更新しています。
また、ヴァルター・ロンゴ博士が考案した「ファスティング・ミミッキング・ダイエット」も科学的な裏づけのあるダイエット法です。
チャチェイ博士によると、このような断食はホルモンをリセットし、細胞の再生を促進する効果があると言います。
「ロンゴ博士のグループが実証したのは、断食の効果を得るためにカロリーをゼロにする必要はなく、通常の半分以下にするだけでも効果があるということです」とチャチャイ博士は説明します。
ファスティング・ミミッキング・ダイエットでは、摂取されるタンパク質の割合も下がります。
「このプロトコルは、年に1~3回、5日間行うことが推奨されています。基本的には、ホルモンが高レベルにならないようにリセットする目的で、また、オートファジー、細胞の再生、抗酸化酵素のアップレギュレーションを促進します」
Children should not fast. Source: Pixabay/Jill Wellington
断食は誰にでもできるものではない
チャチェイ博士は、体重の少ない人、持病のある人、摂食障害のある人には断食は勧められないと警告しています。
キャンベラ・イスラミック・センターのイマーム(指導者)であるアダマ・コンダ氏によると、子供や高齢者、病人はラマダン中に断食することは期待されていません。
「子供は食べる必要があるので、断食する必要はありません。旅行者は断食する必要はありませんが、後から家で行うことができます。妊娠中や授乳中の女性も、断食する必要はありません」
身体的に無理な場合は、やってはいけません
チャチェイ博士は、バランスの取れた食生活を送ることの重要性を強調し、新しい食事療法を始める前にGPや医療専門家に相談することを勧めています。
火木土の夜10時はおやすみ前にSBSの日本語ラジオ!