自由党のピーター・ダットン代表が、安全保障上の懸念があることを理由に、パレスチナ自治区ガザからオーストラリアに逃れてきたパレスチナ人へのビザの発給を全て禁止するよう求めています。
ダットン代表は、オーストラリア保安情報機構（ASIO、エイジオ）について、オーストラリアに避難してきた人に対する「確認や調査を行っていない」と批判し、その結果「安全保障がリスクにさらされている」と主張しました。
「現時点において、あの戦争地帯から人が（オーストラリアに）来るべきではないと思います。賢明ではありません」（ダットン代表）
ダットン代表は、イスラム組織ハマスは「認定されたテロ組織」であるとし、逃れてきた人の身元や支持団体などを当局は把握できていないと述べました。
ダットン代表は、自身が求めていることは差別的でないと主張し、コミュニティー内での緊張を助長しているとの意見も否定しました。
しかし、イスラモフォビア（イスラム恐怖症、イスラム教徒に対する偏見）のケースを記録する非営利団体イスラモフォビア・レジスターは、ダットン代表の発言を「深く懸念され、危険なほど扇動的」だと受け止めています。
レジスターはソーシャルメディアに以下のように投稿しました。
「安全を求めてオーストラリアに来る人たちは、グループとして全て受け入れを禁止すべきだと提案することを通じて、ダットン代表は恥ずかしいことに、害をもたらすステレオタイプ（先入観や思い込み）を永続させ、想像を絶する恐怖を感じ弱い立場にいる人々を中傷しています」
レジスターはまたダットン代表の主張について、根拠がなく、「外国人嫌悪と人種差別を助長し」さらに「恐怖と分断」をあおるものだと指摘しています。
連邦政府のアンソニー・アルバニージー首相は18日、恐怖をあおろうとしているとしてダットン代表を非難しました。
また首相の発言に先立ち、ASIOのマイク・バージェス長官は「扇動的な言葉は暴力につながる」と述べ、政治家に対し、使用する言葉に気をつけるよう警告しました。
公共放送ABCの番組Insidersに出演したバージェス長官は、潜在的に懸念されるとしてフラッグが付されたビザの申請に対しては、ASIOによるセキュリティ評価が行われていると述べました。
「ここでのクリティカルポイントは、セキュリティーチェックが行われているということです」（バージェスASIO長官）
ASIO Director-General Mike Burgess said the institution is oversee potentially concerning visa applications from those fleeing Gaza. Source: AAP / Lukas Coch/AAP Image
長官によると、ビザの申請で組織などに対する「形式的な言葉だけの支援」が含まれていることは問題にはならず、問題となるのは、イデオロギー的または過激派のイデオロギー的な支援を示している人です。
長官はさらに、オーストラリアがハマスをテロ組織だと認めていることを踏まえると、ハマスに対して金銭的または物質的な支援を行うことは、ビザの資格を失うことにつながると説明しました。
ガザからオーストラリアに逃れてきた人は何人?
昨年10月７日から今年８月12日の間に、パレスチナ人によるビザ申請数は１万33件です。このうちビザが認められた割合はわずか29％です。
オーストラリア内務省は SBS Examines に対し、パレスチナ人によるビザ申請のうち7,111件が却下され、一時滞在ビザ2,922件が承認されたと説明しました。
「（一時滞在ビザのうち）2,586件が訪問ビザ、他のビザが354件です。（他のビザの）内訳は、家族ビザが95件、レジデントリターンビザが39件、技能移民ビザが74件、学生ビザが51件、ほかの一時滞在ビザが87件、そしてほかのビザが8件です」（同省報道官）
内務省によると、紛争などの影響を受けた地域から来た全ての人について、そのビザ申請の道は「一つだけではない」といいます。
「個人の状況は皆違います。内務省が強く勧めるのは、ビザを申請する際に自分が置かれた状況を考え、自分に最も合ったビザを申請することです」。
パレスチナ自治区ガザの保健省によると、イスラエルによる攻撃でこれまでにパレスチナ人４万人以上が死亡しています。
避難してきた人が申請できるビザは？
ガザからオーストラリアに逃れてきた人の多くは、訪問ビザなどの一時滞在ビザでまずオーストラリアに入り、その後に保護ビザを申請します。
一時滞在ビザの期間は３～12カ月で、このビザの保有者は就労や就学ができず、医療もアクセスできません。
これは短期のブリッジングビザで、保有者が「一時滞在ビザを取得するかオーストラリアを出国する手続きを行うかを通して滞在資格をはっきりさせるまでの間」オーストラリアに合法的に滞在できます。
一時滞在ビザや保護ビザを取得するには、セキュリティーとキャラクター規定を満たす必要があります。この場合、ビザを申請する際に、申請者に対しての調査が行われます。
非営利のコミュニティー向け法律相談所、Immigration Advice and Rights Centre (IARC)の主任弁護士アリ・モチタヘディ氏は SBS Examines に対し保護ビザについて説明しました。保護ビザを持つ人は難民または保護を必要とする人で、どのようにしてオーストラリアに来たかに左右されますが、オーストラリアに永住または一時滞在が許されます。
保護ビザの申請者に対しては広範に渡る規定が設けられています。この中には、治安面で潜在的なリスクがあるとフラッグが付された人に対してASIOによる調査が行われることも含まれます。
オーストラリアが決めた規定や義務に背いた場合や、キャラクターやセキュリティー規定を満たせなかった場合にはビザの申請が却下されることもあります。
ここで、ガザから逃れてきた人の受け入れを止めるべきだとするダットン代表の発言に戻りますが、モチタヘディ弁護士によると、政府はすでに「キャラクター規定」を根拠に、すべてのビザの申請を却下できるほどの「かなり広域にわたる力」を持っています。
「犯罪行為に関わったことのあるグループと関係があったというだけでも、その人のビザ申請を却下できます。他にも、その人が戦争犯罪を犯していたり、その人が犯罪行為を行うリスクがあったり、コミュニティーに不和をもたらす恐れがあったり、また治安面で潜在的なリスクがあるとしてASICの調査を受けた人なども含まれます」（モチタヘディ弁護士）
モチタヘディ氏によると、ASIOは「他の事柄に加えて、政治的動機に基づく暴力に関わったり、集団による暴力を助長したりする」人を、「治安面でリスクがある」と見なすことがあるといいます。
ビザの申請が殺到し政府がその対応に追われる一方で、この状況を政治問題化することは、社会のまとまりに悪影響を与えかねないと指摘する声もあります。
難民や移民の定住を支援するSettlement Council of Australiaのサンドラ・エルヘルウCEOは、オーストラリアは「成功した多文化国家だが、社会の結束を当然のものだと思うべきではない」と述べました。
「政治的な指導者が分裂を引き起こすような発言をすることは、特定のコミュニティーを標的にすることです。コミュニティーの間で不和を助長し、国全体のまとまりに影響します」。
エルヘルウCEOはまた、ガザから逃れてきた人に適用されているビザのプロセスは過去これまで、ほかの難民たちにも適用されていると続けました。
「すべての人に対して同じ人道的なプロセスを適用すべきです。人種や言語、出身地、宗教の区別なくです」。
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Islamophobia in everyday life
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30/07/202407:21
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